日時:6月23日(月) 14:00〜 場所:東大生研Ew-305 講師:末谷大道先生(鹿児島大学理学部) タイトル:カオスの位相ダイナミクス 概要: カオスの混合性(初期分布の不変分布への収束過程)につ い ては,離散時間力学系ではPerron-Frobenius作用素の 固有モード 解析を通じてある程度の理解が進んでいる.一方, 連続時間力学系では,中立的なモード(軌道の接線方向)に 沿って引き伸ばし と折りたたみが行われるため,カオスが持つ 初期値鋭敏性(軌道不安定性)とその結果もたらされる混合性との関係 は自明ではない.特に, Rosslerモデルなどのある種のカオス系 では,初期分布の情報を長時間 保持する現象が見られ、"non- mixing chaos"[1],"phase coherence"[2],"noisy periodicity"[3]などと呼ばれている. 本研究では,中立(=“位相”)方向に関する系の混合 過 程を調べるために,集団の位相同期度Γの時間変化に注目す る.初期分布 からのサンプリングがN=10^4個程度だと完 全に混合することなく Γは周期性の高い定常的な振動を示すよ うに見えるが,N=10^6個 まで増やしたところ,長期記憶 性は有限サイズによって見られる効果で あり,N→∞で混 合性は成立することが分かった[4].さら に,再帰時間も 考慮したPoincare写像の構成を通じて,位相拡散係数など混合を 特徴付ける指数が適切に求められることを示す. また,連続時間力学系のカオスに適当な周期外力を与えると,軌道の 中立方向に関する混合性が失われることが知られており,"カオ ス位相同期"と呼ばれている[5].このカオス位相同期現象 と不安定周期軌道集団のポアンカレ断面への再帰時間の分布との関連に ついて考察する.さらに,外力の位相で定義される不変集合(カオスの 等位相集合)の幾何学的性質についての考察も行う. [1] Y. Oono and M. Osikawa, Progress of Theoretical Physics 64, 54 (1980). [2] D. Farmer, J. Crutcfield, H. Froehling, N. Packard, and R. Shaw, Ann. N.Y. Acad. Sci. 357, 453 (1980). [3] E. N. Lorenz, Ann. N.Y. Acad. Sci. 357, 282 (1980). [4] 末谷,橋本,堀田,合原,日本物理学会第63回年次大会予稿 (2008). [5] A.S.Pikovsky, M.G. Rosenblum, G.V. Osipov, and J.Kurths, Physica D 104, 219 (1997).